道場運営において、新規入会を増やすことも重要ですが、いかに生徒を定着させ、退会を防止するかが経営の安定・発展には不可欠です。

特に子ども会員や初心者会員が続けにくい環境では、指導者・運営側の仕組み・関係性づくりが鍵となります。
こちらの記事では、「初心者」「新規会員」「既存会員(子ども含む)」それぞれの、効果的な施策を整理していきます。

このコラムを書いた人
大谷悟
  • 道場専門のコンサルタント、ウェブ解析士
  • 武道を職業として成立させるために全国の道場長をサポート
  • 広告を使わずに1年で100人の新規入会者を獲得
  • 道場専門のHP制作サービス(WEB道場)運営
  • 道場検索サイト(武道・道場ナビ)運営
  • 自身も武道有段者で道場を運営
  • 前職は国家公務員として広報や政府開発援助に携わる

初心者・新規会員の“定着”を支えるポイント

初心者向けサポート体制を設ける

武道・格闘技を初めて始める会員は、
「何をしていいかわからない」
「自分だけ置いていかれるのでは」
という不安を抱えがちです。

そこで道場側ができることとして以下のような内容があります。

  • 入会直後に「この道場ではどう進むか」「次〇回でこの技を試せるように」という具体的な道筋を示す
  • HPや会員案内資料に「初心者向け技の解説」「稽古を迷ったときの対処法」などを掲載して安心感を与える
  • 稽古中、初心者に対して少し手厚く声かけ・フォローを入れる。例えば「最近どう?」「どこが難しい?」

定期的なフィードバック/成長実感の提供

初心者・新規会員が辞めてしまう大きな理由として、「成長が見えない」「自分だけ進んでいない」という感覚があります。
そのため、運営・指導者が意識すべきこととして次のようなことに気を付けましょう

  • 稽古の節目(例:入会3か月/帯昇級時/大会参加後)で「これだけ成長した」というフィードバック
  • 会員本人・または保護者向けに「お子さん/あなたが上達したポイント」を共有する。
    保護者目線も活用することで定着
  • 成長を視覚化・可視化する。
    帯の変化・昇級試験合格・稽古出席記録などを「見える化」することでモチベーション維持

家族参加型・保護者巻き込みイベント

特に子ども会員の場合、「保護者の理解・協力」が通い続けるカギとなります。
効果的な施策として、次のようなものがあります。

  • 定期的に保護者向け見学会や体験会を開催し、道場活動を“共感できる場”にする
  • 親子クラスやファミリーイベント(道場祭り・親子稽古会など)を企画して、家族全体で道場を応援・参加する文化を作る
  • SNS・LINEを活用し、稽古の様子を保護者に日々伝える。子どもの成長を“家庭でも知れる”ようにしておくと、辞めにくくなる

既存会員・中期在籍者の退会防止策

新規・初心者の定着が進んだら、次は「既存会員の離脱を防ぐ」ことに目を向けましょう。
特に、子ども会員であれば「受験」「就職」「進学」など、辞めやすいライフステージの変化が存在します。
以下、3つの有効なアプローチを紹介します。

辞める会員の「共通点」を把握する

退会に至る会員には、ある共通傾向があります。
例えば
「稽古が休みがち」
「試合に参加しない」
「本人がやらされている感を持っている」
などです。

具体的な対策として次のようなものが挙げられます。

  • 過去に退会した会員のデータや状況を振り返り、辞める傾向のある条件を洗い出す
  • 今在籍中の会員で該当に近い動き(出席減・試合参加なし・保護者との関係薄)を見つけたら早期フォローを行う
  • 試合・イベント参加を促すなど、辞める傾向の行動(例えば「稽古を休みがち」)を変えるための仕組みを入れる

自らの“子ども時代の武道経験”を振り返る

指導者自身が“自分が続けられた理由”を振り返ることで、今の子どもたちに必要なサポートを設計できます。
具体的には、、、

  • 指導者自身が「受験期や部活との両立で道場をどう続けたか」を考え、その際の先生のサポート(連絡くれた/稽古に顔出した)などを整理
  • その経験から「こういう時期には保護者/本人にこう働きかける」といったルール(例えば進学前月は出席チェック強化)を作る
  • 自分が体験した「辞めずに済んだ要因」を指導者視点で会員に提供する

会員専用ページ(デジタル会員サービス)の活用

既存会員の満足度・帰属意識を高めるために、道場HP上に“会員限定コンテンツページ”を設けることも非常に有効です。

【実践ポイント】

  • 会員専用ページを作ることで「自分はこの道場に所属している」という“特別感/帰属意識”を醸成
  • 掲載内容として
    ・通常稽古ではなかなか扱わない応用技・先生のこだわり技術
    ・会員限定動画、会員インタビューなど
    ・稽古生の動画投稿・会員同士が交流できる掲示板・コメント欄など
  • システム要件は簡単で、HPにパスワード付きページを設けるだけでOK。特別なIT知識も不要

運営視点で押さえておくべき「定着・退会防止」全体戦略

目標設定と達成感を設計する

初心者から既存会員まで共通して言えるのは、「自分の成長を実感できる」環境を作ることです。

  • 帯制度・昇級試験・大会参加など、「これをクリアすれば次がある」という段階設計を丁寧に作る
  • 達成者には称号・壁掲示・SNS発信など“見える化”をしてモチベーションを維持させる
  • 「次のステップまであと〇回」「今月は稽古〇回でこの動きをマスターしよう」といった具体的指標を提示

保護者・家族を巻き込む関係構築

特に子ども会員では、保護者が道場を理解・支持しているかで継続率が大きく変わります。

  • 家族が道場を応援団になるような仕組みを作る:懇親会、ファミリー稽古、保護者向け説明会
  • 稽古や成長の様子をSNS・LINEで保護者に随時共有し、「我が子を見守ってくれている環境」と感じてもらう
  • 家族参加型イベントを定期的に行い、道場を“子どもだけの場所”から“家族皆で関わる場”に変える

早期フォローと「異変察知」の体制を作る

会員が離脱に傾く初期段階(出席減・雰囲気変化・モチベ低下)を早期に察知し、早めに手を打つことが「辞めない道場」の裏側です。

  • 出席状況、稽古態度、言動変化などを指導・運営側で定期チェック
  • 異変を察知したら「最近どう?」「何かあった?」と直接声かけ
  • 必要に応じて保護者・本人面談・モチベーション再構築セッションを実施
  • 「試合参加促進」「初心者フォロー強化」「休眠会員呼び戻しキャンペーン」など、状況に応じた対応策を持っておく

継続率改善のための“運営インフラ”を整備する

  • 会員データベースを活用し、在席年数・退会理由・出席頻度などを記録・分析
  • 会員専用ページなどのデジタル会員サービスを活用し、会員満足度・ロイヤルティを高める
  • 経営視点で「新規入会+既存継続=安定収益構造」を理解し、目先の入会数だけでなく定着率・平均在籍年数をKPIに設定

ケース別対応 ―「子ども会員」「成人会員」それぞれに響く対策

子ども会員の場合

  • ライフイベント(受験・進学・就職)による離脱リスクが高い
  • 保護者のサポート・理解を得ることが極めて重要
  • 試合・イベントへの参加機会を設け、「道場に居続ける理由」を明確化
  • 指導者が自分の子ども時代の経験を振り返り、その経験をベースにフォロー設計を行う

成人会員(初心者・経験者問わず)

  • 仕事・家庭・趣味との両立がテーマ。忙しいライフスタイルの中では稽古継続が難しくなりがち
  • 明確な目標設定(例:×か月でこの技を会得/昇級を取る)と達成感の設計が効く
  • 会員専用ページなどで「この道場ならではの価値/深められる技術」があることを提示し、所属意識を強める

まとめ:定着・退会防止を“仕組み化”するために

「在籍させる」から「通い続けてもらう・愛着を持ってもらう」へ意識を転換することが重要です。

  • 初心者・新規会員には「迷わせない導線」「成長を見せる仕組み」「家族巻き込み」
  • 既存・中期会員には「異変察知体制」「デジタル会員サービス」「帰属意識向上」

運営側としては、新規獲得だけでなく「定着率」「離脱率」「平均在籍期間」を経営指標として設定し、PDCAを回しましょう。

一貫して言えるのは、生徒/会員一人ひとりを“ただ通う対象”ではなく、「道場の仲間・所属者」として捉え、関係を丁寧に築くことです。

FAQ:よくある質問

Q
新規会員がすぐ辞めてしまう原因は?
A

多くの場合、「不安の放置」と「成長実感の欠如」が原因です。
入会後の最初の1〜2か月はフォローを密に行い、目標や練習の意味をしっかり共有することで早期退会を防げます。

Q
子ども会員が中学受験・高校進学で辞めてしまうのを防ぐには?
A

保護者との連携が最も重要です。
進学前に「受験後も続けられる仕組み」や「通いやすい時間帯の提案」を行い、家庭全体で継続を支援してもらいましょう。

Q
成人会員のモチベーション維持には何が効果的ですか?
A

昇級・大会・技術習得など「目標の明確化」と「成果の見える化」です。
SNSや会員ページで成果を紹介すると、他の会員にも良い刺激になります。

Q
会員専用ページはどんな内容にすると良いですか?
A

限定動画・大会結果・先生のコラム・上達のコツなど、“ここでしか見られない特別感”を重視しましょう。

Q
退会を考えている会員への対応で気をつけることは?
A

「引き止め」よりも「理由の傾聴」が大切です。理由を理解することで、今後の運営改善につながります。また、円満退会を経た会員が“戻ってくる可能性”もあります。

Q
継続率を数値で管理する方法はありますか?
A

会員データベース(入会日・退会日・出席回数)を記録し、月次で「在籍率」「平均在籍期間」を算出します。
これにより、道場の“継続健康度”を可視化できます。

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