道場を運営していると、どれだけ真剣に指導していても、ある日突然保護者からクレームや不満の声が寄せられることがあります。

「そんなつもりはなかった」
「常識だと思っていた」

という内容が、誤解や情報不足によってトラブルに発展してしまう――
これは多くの道場経営者が経験していることではないでしょうか。

実はこうしたクレームの多くは、「最初にきちんと伝えていなかった」ことが原因です。
裏を返せば、入会前後の段階で、重要なポイントをしっかり伝えておくだけで、ほとんどのトラブルは防ぐことができるのです。

この記事では、道場を運営する上で「これは絶対に入会前後に伝えておきたい!」という3つのポイントをご紹介します。
それぞれについて、なぜ必要なのか、どう伝えればよいかも含めて解説します。

このコラムを書いた人
大谷悟
  • 道場専門のコンサルタント、ウェブ解析士
  • 武道を職業として成立させるために全国の道場長をサポート
  • 広告を使わずに1年で100人の新規入会者を獲得
  • 道場専門のHP制作サービス(WEB道場)運営
  • 道場検索サイト(武道・道場ナビ)運営
  • 自身も武道有段者で道場を運営
  • 前職は国家公務員として広報や政府開発援助に携わる

なぜクレームが起きるのか?多くは“伝えていないこと”が原因

クレームは、稽古の質や内容そのものが問題であるとは限りません。
むしろ、

「言われていなかった」
「知らなかった」
「そんな決まりがあるとは思わなかった」

といった“認識のズレ”から発生するケースが圧倒的に多いのです。

たとえば…

  • 欠席したら振替ができないと知らずに「損をした」と感じる
  • いつまで経っても昇級ができずに不満に思う

こうした声は、事前にルールや方針を丁寧に伝えていれば回避できたかもしれません。

つまり、クレームを予防する鍵は「先に説明しておくこと」にあるのです。

道場の理念・方針は最初にしっかり伝える

道場によって指導方針や大切にしている価値観は大きく異なります。
「礼節」「厳しさ」「自立」「仲間意識」など、何を重視しているかは道場の理念によって違います。

その違いがあるにもかかわらず、理念や方針をあいまいにしたまま入会を受け入れてしまうと、保護者との間にズレが生じます。

特にトラブルになりやすいのは、「指導中の声が厳しい」とか「もっと褒めてほしいのに…」といった保護者の感覚とのギャップです。
しかし、事前に「当道場は礼儀を重んじ、時には厳しく指導します」と伝えていれば、そうした誤解は生まれません。

道場の理念・方針を明文化し、次のような方法で保護者に伝えることが効果的です:

  • ホームページに掲載し体験前に理念を知ってもらう
  • 初回体験後の説明で、指導理念を口頭で伝える

理念が明確な道場には、共感してくれる保護者が集まります。
逆に、理念を伝えない道場には「価値観の合わない人」も来てしまうため、トラブルが起きやすくなるのです。

実際に弊社が支援する道場でも理念をHPで周知することで価値観のズレによる退会が減ったという事例もあります。

欠席・遅刻・振替のルールは“紙でも言葉でも”

運営上、非常に多いトラブルの一つが「出欠」に関するものです。

たとえば、

  • 振替が可能な事を知らされていなかった
  • 欠席連絡が遅れたことで振替が認められない
  • 会員都合で欠席が続いたが月謝を請求された

こうしたルールは、はっきりと決めていても「伝わっていない」と意味がありません。

特に注意したいのは、口頭だけで済ませてしまうことです。
話したつもりでも、相手が聞いていなければ「言われていない」となります。

そこで、以下のような工夫が有効です:

  • 欠席・振替ルールを紙やPDFの案内で渡す
  • LINEやBANDなどで固定投稿で案内する

また、ルールを決める際には、「なぜそうしているのか」という背景も併せて説明すると、納得度が高まります。

親の関与の範囲はあらかじめ明示しておく

「親が練習を見学できるかどうか」は、道場によって考え方が分かれるポイントです。
そしてそれは、意外とクレームや誤解の原因になりやすい部分でもあります。

例えば、ある道場では「保護者はいつでも見学OK」としている一方で、別の道場では「子どもの集中力が切れるため、原則見学不可」としています。

どちらが正解というわけではなく、道場としてどちらの方針を取っているか、そしてその理由をどう伝えるかが大切です。

見学対応のメリット・デメリットについては、以下の関連記事でも詳しく解説しています。

【メリット】

  • 親が安心できる
  • 指導の雰囲気を知ってもらえる
  • 保護者との信頼関係を築きやすい

【デメリット】

  • 子どもが親に甘えて集中できなくなる
  • 親の声かけや干渉が指導の妨げになる
  • 他の保護者とのトラブルにつながることも

このように見学には一長一短があります。
そのため、たとえば次のようにルールを設定し、あらかじめ保護者に伝えるのがおすすめです:

  • 見学は体験時と月1回の公開日を除き、原則不可
  • 見学は可能だが、私語・声かけは禁止
  • 下の兄弟を連れての見学はできるだけ控えてもらう

ルールを明確にし、説明の際に「この方針にはこういった理由があります」と伝えれば、保護者も納得してくれます。

見学のルールをあいまいにしていると、
「見せてもらえない=何か隠しているのでは?」と不信感につながることも。
逆に、自由に見学できすぎると「親の干渉が増え、運営に支障が出る」という結果にもなりかねません。

いずれにしても、方針を明確にし、事前に共有しておくことがクレーム予防の鍵になります。

まとめ:クレームを防ぐのは“伝える力”と“準備力”

道場に寄せられるクレームの多くは、稽古の良し悪しではなく、

「伝えていなかったこと」
「伝え方が不足していたこと」

に起因しています。

そのため、入会前後のタイミングで以下の3点を明確に伝えるだけで、多くのトラブルを未然に防ぐことができます。

  1. 道場の理念・方針
  2. 欠席・遅刻・振替のルール
  3. 保護者の関与の範囲

どれも「言ったつもり」では伝わりません。紙やWebで見える形にしておく、口頭で説明する、など、形式を整えることも重要です。

そして、理念や方針についてはホームページにしっかり記載し、体験前後に自然と目に入るように導線を整えておきましょう。

「最初に伝える」ことが、トラブルのない道場経営の第一歩。
信頼関係を築き、長く通ってくれる会員と保護者を育てていくために、ぜひ実践してみてください。